「家族農業」ということについて
『実行委ニュース』第147号より転載。
「家族農業」ということについて
新空港反対東灘区住民の会事務局長 松原康彦
進さんを偲んで
三里塚の萩原進さんが年末に突然亡くなられました。その3日前に気持ちのいい時間を4時間も共に過ごし、前日もお電話で話していただけに、未だにその事実が受け入れられず戸惑っています。
進さんはよく「家族農業」の大事さということを話しておられました。この場合の「家族」は「核家族」ということばで表現されるものとは大きく違います。「家族」が孤立して農を営むというのとは違うのです。アメリカの歴史学者トマス C・スミスは、「江戸時代の農業は世界で最も進んだ農業だった」と書いています(1959年、日本語版大塚久雄監訳 1970年『近代日本の農村的起源』)。彼が美化する江戸時代の農業は、農民にとっては「生かさず殺さず」の厳しい年貢による収奪を背景としたものであったことがきれいに見落とされています。しかし、江戸時代にいたる「結(ゆい)」という繋がりを背景とした「ムラ」の形成が、2千年にわたる日本の農業の営みの中で山を、森を、林を、川を、平野を、つまり自然総体を作り上げてきたことが知られています。亜熱帯モンスーンの気候と厳しい山々に大半の土地が占められている日本でこそ、豊かな水を背景に、わずかな土地を切り開き、棚田の文化を中心にこの「素晴らしい」と彼が評価した収奪をはね返し生き抜いていくための自給自足を前提とし、自然との循環を前提とした農業が生まれたのです。それが「家族農業」でした。
明治からの80年近い「戦前」は富国強兵を生み出す原資として都市住民に比べて圧倒的に過重な課税が「地租」として農民にかけられ、耐えかねた農民の小作化、労働者化を生み出しながら、世の中は帝国主義的発展を謳歌する背後で江戸時代の農業が引き継いで行かれました。
戦後農業の変遷
ところが、第1次世界大戦、第2次世界大戦の毒ガス研究の中から生まれた農薬、化学肥料などの投入と様々なトラクターなどの農機具の導入によって戦後の農業は大きく一変しました。それは1960年代に始まるこの国の自由化の流れの中で、自給自足の農業から農産物の商品化の農業、単一作物の生産と規模拡大を追い求める農業へと変わっていく(1961年、農業基本法制定)ことと一体のものでした。
それはこの国の貴重な基盤であった自然との循環を断ち切り、同時に「子孫のために美田を残す」「未来からの預かりもの」といわれた土地を、土を戦後経済の発展の原資としたことによって簒奪が行われていったのです。開発によって自然が奪われていったのはもちろんですが、農業のこの変化が自然を破壊していったのです。
そして長い営農の中で、農民の血と汗の結晶として育まれてきた肥沃な大地が、土が、農薬と肥料によって、あるいは重機の重さによって破壊されていったのです。農民の山下惣一さんは、戦後40年で田んぼがそれまでの貯えを失い、コメが死んで収穫できなかった事態を書いておられます。
ある意味で、2千年かけて作ってきた「世界でもっとも進んだ農業」と言われたものを、農地を、自然を、戦後わずか60年でほとんど破壊し尽くしてきたと言えるのではないでしょうか。
2・16シンポに
しかも今、「GDPのわずか5%のために、95%を犠牲にするのか」といった主張を先頭に、今も農民の90%以上を占める「家族農業」を破壊しようとする政治が、この国の農業政策として進められようとしています。
その上、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加が安倍政権によって進められようとしています。これはISDS条項(投資家と国家の紛争解決条項)に象徴されるように、農地法をも解体し、土地を、農地を経済の原資として最終的に解体していくことにしかなりません。
しかし、一方で世界の人口が2030年代には100億になると言われ、農業生産はこれ以上増えることは難しいと言われる時代の中で、「飢餓の時代」があちらこちらから囁かれ始めています。そんな中で、真面目にもう一度「自給自足」を、「農」と自然を軸とした人間の関わりとつながりを見据えることが必要となっているのではないでしょうか。福島原発事故の現実とそれ以降の推移は、「自然科学の発展」を根拠とした発達神話のおぞましさを暴露し、こうした「農」への想いを強く指示しているように思えてならないのですが、いかがでしょうか。
こんな想いを抱きながら、みなさんに「ほんまやばいで TPP2・16シンポジウム」をご案内いたします。
(なお、右上の田んぼの挿絵は山形県高畠町の農民詩人の星寛治さんの著書『「耕す教育」の時代』(2006年)の挿絵を無断で転載させていただきました(高田美果さん絵)。右下の挿絵は、松田妙子さんに描いていただきました。)
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