武谷三男編『原子力発電』を読んで思う
たまたま昨年来、高木仁三郎さんの本をはじめ、原発、核、原爆被害などの本を読んでいました。そこへ、3・11。広瀬隆さんや小出裕章さんはもとより、肥田舜太郎さん、広河隆一さん、堀江邦夫さん、などなど、どんどん広がっていってしまいます。
そんな中、1976年に岩波新書から出版された武谷三男編の『原子力発電』を本棚から取り出して読んでみました。茶色くなってしまった「古色蒼然」としています。1979年に購入していることから見るとアメリカのスリーマイル島の事故(1979年3月28日)を契機に購入したのだと思いますが、ほとんど内容は覚えていませんでした。ただ、武谷さんには、自然科学を学ぼうとしていた当時の私たち学生にとって『自然科学概論』(1957年刊)という名著があり、70年頃、各地の公害問題と自然科学との関係、学者・専門家の責任などに関心をもっていた私も熱心に読んだ記憶があります。
さて、武谷さんたちがこの『原子力発電』で指摘されている内容が、今日、3・11を経過した中でも、全く古びていない正確な論議をしておられることに驚きました。商に長けた岩波が、再版して店頭に並べるのもなるほどとうならせるほどです。もちろん、スリーマイルはもとより、チェルノブイリ(1986年4月26日)も、高速増殖炉もんじゅの「ナトリウム漏れ事故」(1995年12月8日)も、東海村の核燃料加工工場での「JCO臨界事故」(1999年9月30日)もいずれもこの本が出版された後、起こっています。
同書の中にこうあります。―― 大出力の、つまり潜在的危険の大きな発電炉はまだ運転をはじめて日が浅く、幸いにしてそれからの大事故はまだ発生していない。しかし小型の原子炉はすでに数多く建設されていて、その大小の事故の経験の中からさまざまな教訓をくみとることができる。(同書 90ページ)―― としています。
もちろん時代的限界による曖昧な表現も各所にあります。「核」と「原子力」があたかも違うものであるかのように扱われ、原爆被害者の「反核」運動の中から「核と原子力は同じだ」「核兵器反対でなく核反対だ」という声が福島事故の現実の中からようやく全体的に大きく起こってきたことが明らかになる現在の状況ですから、35年も前の当時の専門家としてどこか「原子力の平和利用」に片足が突っ込まれているような表現があります。
しかし他方、「さまざまな教訓」が35年も前にこれほどに分かりやすく、「一般向きのよみやすい本」(あとがきより)として武谷さんはじめ専門の学者たちから提示されていながら、3・11以降マスコミを賑わせ、政府、東電の犯罪的とも言える対応のお先棒を今もなお担ぎ続けている学者・専門家がいることに、この国のありようについて本当に考えさせられます。それは小出裕章さんが発言されるたびに、「40年間、止めるどころか、3・11を招いてしまった専門家としてみなさんにお詫びする」と言われますが、それに人ごとのように関わることしかできなかった私たち自身もまた問われていると思います。
もちろん、堀江さんやカメラマンの樋口さんが訴え続けておられるように、原子力発電というものが、コンピューターで自動制御されているのではなく、日常的に電力会社の下請け、孫請けなどの非正規の労働者の手仕事によって、膨大な労働者の被曝の犠牲によって維持されている問題があります。この40年間、巨大な電力業界の政治力によって闇に葬られ続け、多くの被曝労働者が人知れず病み、殺されてきた問題です。また田中三彦さんなど原子力産業の現場の専門家によって指摘され続けている「原発老朽化」、核反応による中性子照射が引き起こす原子炉容器の脆化や膨大なパイプなどの劣化などの恐ろしい問題があります。さらに石橋克彦さんなどが指摘されているように、当時の地震に関わる学会の水準では明らかに出来ず、この20年足らずの中で明らかになり指摘され続けてきた「地震国日本」の問題があります。これらは1976年当時にはまだ問題として把握される状況にはなかったでしょう。
それでも、表現される単位などの難解さがあるというものの、子どもたちへの内部被曝の問題など、驚くほど、今言われていることが、ほぼ正確に指摘されているのです。
私たちの国は、政府は、財界は、なによりも専門とする学会は、この35年間、何をしてきたのでしょうか。そして私たちは・・・。
最後に同書のひとつの指摘を貴重なものとしてご紹介します。―― このような大都市中心の地域エゴばかりではない。企業エゴという怪物もある。原子力発電の利益にあずかる一部の人々が、被害を弱い人々に押し付けておきながら、公共の名を利用して社会全体として利害のバランスが成立すると主張している。こういう錯覚から開放されることが必要なのである。どのくらいの害なら受け入れられるか、それを決めるのは、被害を受けつつある「あなた」なのです。(同書 84ページ)―― と。
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