朝日社説「日本の空の戦略を示せ」に思う
一昨日、7月20日の朝日新聞が、関西空港と伊丹空港の経営統合のための新会社を国が全額出資して発足させる問題について「日本の空の戦略を示せ」と題する社説(右下写真、あるいは「11.7.20朝日新聞・社説.pdf」をダウンロード )を書いています。2空港の一体運用で羽田・成田と並ぶ拠点空港にして民間に売却し1兆円を超える関空の負債を返済するというプランについてだ。「3空港論議」、少なくとも「統合論議」が盛んなときにこの「社説」が出たんだったら「拍手・喝采」「さすが、朝日」となるのだが、最近は、ことが終わってから、なんの役にも立たないボヤキのようにつぶやく。これで大新聞の権威を維持しているつもりなのだろうか。うんざりします。
しかし、「両空港の統合問題」について、「絵に描いた餅になる恐れはないか。疑問は尽きない。」「そこでひねりだされたのが統合法であり、抜本的な解決になるとはとても思えない」と正しく切り捨て、「需要確保のめどが立たないなら」と核心的な問題点を指摘し、「日本の空の玄関口の長期戦略をどう描」くのかと問題を立てています。これを半年前に書いていたらなぁと思わずぼやいてしまいます。(右写真をクリックしていただければ大きく拡大されて読めます)
先日友人が、祖母の危篤の報でパリから関空へ帰ってきて午前中に実家へ。そして帰ってきたその日の夜の臨終に立ち会えたそうで、帰りは成田から帰って行かれました。関空にはパリからはエア・フランス1社で、日に1便しかないので不便だと。日本の航空会社、JAL、ANAは関西空港から欧米便には飛ばしていません。関西空港の欧米便の便数は、関西空港全体の8%しかない上に、金融の世界の中心、ロンドン、ニューヨークには便がほとんどありません。これらは、関西空港に航空会社が利益を見込めるビジネスクラスやファーストクラスの乗客がいないからです。不況にあえぐ世界の航空会社が、JAL、ANAを先頭に関西空港を見放しているのです。旅行客が中心の韓国、中国、東南アジアで71%、ハワイなどを入れたら、実に81.9%と、関西空港は今や観光客だけの世界のローカル空港に転落しています。「羽田・成田と並ぶ国際拠点空港」などというのは夢のまた夢。
統合などというのは、この関西空港の需要の実態になんの効果もなく、正に「絵に描いた餅」でしかありません。もちろん、橋下大阪府知事が言うリニアモーターカーやカジノも。
ご承知のように羽田・成田の狭隘という問題は、成田空港建設に活路を求めた1970年代以来、一貫した日本の航空政策(「空の戦略」)の最大の欠陥となっています。1966年6月22日、あの佐藤首相・友納千葉県知事による密室の会議で一方的に成田空港計画を決定し、法的に求められていた住民、地権者への説明の機会や同意さえも取ることもなく機動隊の国家暴力と莫大な金をばらまくことで、憲法にも違反して建設が開始された当時の政府や国交省が想像したこともない「想定外」の事態が今日生まれています。
中国に追い抜かれたとはいえ、今なお世界第3位(国民一人あたりで言えば世界第2位)の経済大国である日本で、その経済の根幹である「ヒト・モノ・カネ」を動かす空港が、世界はもとよりアジアの韓国やシンガポール、香港はじめ中国の各空港、フィリッピン、タイなどの並み居る各空港の巨大化に追いつかないでいる惨状にあることは衆知の事実です。深刻な「国家体制としての危機」にあることは当然です。
1970年代に国交省に行くと、官僚や政治家共は「需要は作るものだ」とうそぶき、日本全国に100もの空港を巨額の税金を投入してつくりました。とりわけ世界の動きに対応していくために、関西空港と中部国際空港を作ったのです。平行した4000メートル級の2本の滑走路を持ち24時間運用できる関西空港などは、陸地の騒音問題にからむ飛行コースの制限があるものの少なくとも離発着が年間30万回以上、同規模の内陸にあるロンドンのヒースロー空港の例から見ても50万回も可能な空港です。しかし、観光客を相手にしたローカル空港では11万回がやっとで、関西の3空港を合わせても30万回に届くどころではありません。世界の航空事情から完全に取り残された日本の現実が、東京に次ぐ大都市圏関西で露呈しているのです。
「日本の空の戦略」を云々する国交省や国家権力にとって問題は、破綻したこの関西空港(あるいは統合問題)などではなく、異常な首都圏への一極集中を新自由主義的政策によって強めている日本の中で、首都圏空港の容量が異常に狭隘だという問題にあるということです。道州制もまたそうした傾向、国家体制を進めるものとしての新自由主義者の主張でしかないことが明らかになっています。しかし、拡張されたとはいえわずか6万回の国際線の枠を生み出すのがやっとの羽田空港と、騒音問題と安全問題を無視した成田空港を一体運用したところで、わずか28万回にしかならない現実は、帝国主義として「ヒト・モノ・カネ」を自分の手で動かすことができないという「信じられないような」事態となってその喉元に突きつけられ、長期デフレに苦しむ自らの破綻を引き寄せ続けるものとさえなってきているということなのです。
「成田空港の地盤低下」は、成田空港の株の上場、自由化に空港利権が吹っ飛ぶのではないかと恐れる地元自治体や地元財界の問題でしかなく、国交省や国家権力、大資本にとっては、それどころではありません。何がなんでも成田空港の完成、拡張による首都圏空港の50万回(ヒースローで50万回)規模への道を「国策」とする以外に道がないところへと追い詰められているのです。それは1966年当時とは全く異質な事態なのです。首都圏第3空港計画の破たん、羽田の拡張もこれ以上は無理、横田基地の返還など論外の対米従属を深める現政権にとって、文字通り「成田拡張」にかけるしかないところへと追い詰められているのです。これが現在の日本の国交省、国家権力の「日本の空の戦略」の姿です。
成田空港での2002年の暫定滑走路の供用開始直後から、農地法による市東さんの農地強奪攻撃がはじまり、それが8年を経た今でもうまく進まない現実に規定され、ついに昨年の2・25天神峰現闘本部千葉地裁反動判決以来、暴力的に「国策」を掲げ、襲いかかってきているのは、正にこうした彼ら国家権力の追い詰められた現実ゆえでしかありません。
こうした理不尽極まる三里塚農民とその闘いにに襲いかかる政治は、福島原発による地域住民の途端の苦しみにとどまらない惨劇を生み出し、沖縄で沖縄県民の基地撤去の願いと闘いを今もなお踏みしだこうとするこうした「国策」の名のもとにすすめられてきた政治の故であり、多くの労働者、人民、農民、漁民とは相容れない、いや犠牲を強いて格差と貧困を強制してくる以外の何ものでもありません。
こうした成田空港をめぐって現在、日々起こっている非民主的な凄まじい現実と政治を意識的に棚上げし、関空の統合問題で「日本の空の戦略を示せ」と提起して何かを言っているつもり(それもピントをわざわざずらせた)になっている「同じ穴のムジナ」の思い上がりを、腹のそこからの怒りを込め糾弾するものです。
今こそ、この朝日新聞の社説のインチキに惑わされることなく、先日の7・18現地緊急闘争で提起されたように、沖縄・福島・三里塚を切り結んで、「国策」を吹っ飛ばし、新しい時代を、社会を築こうではありませんか。
なによりもまず「反戦の砦」三里塚の闘いの真骨頂をかけて、天神峰現闘本部を守り抜き、第3誘導路建設を粉砕して市東さんを守り抜こう!
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