芦原・住宅追い出し阻止裁判 陳述 (6月30日)
6月30日、神戸地裁尼崎支所で開かれた「芦原・住宅追い出し阻止裁判」第3回公判で、「被告」とされた住民Kさんの陳述が行われましたので、ご本人と芦原地区自治会連合にご了解をいただいて全文掲載いたします。
はじめに
民事一部に係属する被告とされた住民全員を代表して、本裁判の審理を始めるにあたって、裁判所に是非とも言っておきたいことを時間の許す限り述べます。
原点に帰るべきである
これから争う裁判を、単に「家賃の滞納があるから住宅明け渡しを求めた事件」としてはなりません。それは、森どころか木すらも見ない論議です。
わたしたちが住む改良住宅家賃が、国の公営住宅法改悪に便乗して応能応益家賃に抜本的に変更されたのは、今から11年前の1998年です。2004年5月27日には、この同じ法廷でわたしたちの訴えが認められ、「値上げは違憲・違法」との判決がでました。裁判を始める時、当時の西宮市の住宅部長は、「行政には金も組織もある。裁判なんかして勝てると思ってるのか」と言い放ちましたが、裁判所というところは、法律を正しく、厳格に判断するところなのだなあ、ということをあらためて感じました。
わたしたちは、単に家賃があがるのは困るというだけで値上げに反対してきたのではありません。応能応益家賃が、部落差別撤廃のために建設された改良住宅の目的を大きくねじ曲げるものだからです。改良住宅は、わたしたちが住んでいた家や土地を「差別をなくすため」という理由で提供して建てさせたものです。行政も、畳にオデコをこすりつけるように、「差別をなくすために改良住宅を建てさせてください」、「値上げはしません」と立ち退きのお願いに来ていました。「家賃は収入に応じて変わります」、「収入超過者には割増賃料がかかります。高額所得者には住宅を明け渡してもらうことになります」などという説明だったならば、一軒も改良住宅が建つことはなかったでしょう。
この改良住宅の成り立ちは、部落差別がなくならない限り、決してあいまいにしてはならない主要な事実です。また応能応益制度の適用によって、芦原地区はじめ全国の被差別部落は、若い世帯はどんどん転居を余儀なくされ、高齢者、障がい者、低所得者などが極端に増えてしまい、毎月の掃除すら苦労するようになってしまいました。
私の家族は、私、妻、長男の3人ですが、阪神大震災で被災し、家を失いました。同じ芦原地区の西福町で震災前に住んでいた住宅の家賃は3,200円でした。1995年の話しです。地震のその日に、芦原地区にある若竹生活文化会館に避難し、そこで8月のお盆まですごしました。
西宮浜などの遠く離れた仮設住宅はありましたが、わたしたちが仮設住宅を地元での建設にこだわったのはなぜだかわかりますか? 差別が吹き荒れる一般社会に放り出されたら、出身を隠して、ひっそり息をひそめてしか生きていけないほど、今も厳しく部落差別が存在するからです。避難所のみんなで住宅要求者組合をつくり、地元の青木町の仮設住宅に入居しました。それから数年、仮設という名前どおりの苦しい環境の暮らしながらも、恒久的な低家賃公営住宅の地元への建設を住宅要求者組合の仲間と要求しつづけ、ようやく1999年3月ごろ、今、明け渡しを求められている神明2号館○○号室に入居することができました。
わたしたちはこの裁判で、改良住宅建設の原点に帰った論議をもう一度、いちからはじめていきます。そうでないと正しくこの事件を理解できないからです。この主張・立証のために裁判所は十分時間をとっていただきたい、申請する証人は可能な限り認めてもらいたい、ということが第一に訴えたいことです。
また、私たち民事1部の被告住民も、民事2部の被告住民も、まったく同一の意見を持っています。いまのように、二つにわかれたままだと、仕事を一週間に2回も休むのは実質上無理なので、芦原地区自治連合会の東口会長の事件に全部を併合してくださることを二つめにお願いします。
とりわけても住宅明け渡しは認められない
たしかに、わたしの家族と被告・Tさん、被告Mさんは、他の被告のみなさんと若干入居の経緯は違います。阪神大震災で住宅を失ったことが入居の理由です。しかし、戦前からの住宅が西宮市によって放置されてきた結果、一般地区の7倍の死亡者、地区の75%、一般地区の1.4倍の家が全半壊したことは、阪神大震災こそ、現代の部落差別をはっきりとしめした事態でした。
部落差別撤廃のために、元いた家を立ち退いて建設させたのか、部落差別の現実から地元に建設させたのか、くらいの違いしかありませんし、実際、条例では、同じ改良住宅に分類されています。
とくにわたしがここで言いたいのは、私とTさんは、一度も「家賃を支払え」という裁判にかけられていません。これは西宮市では異質なことです。この裁判に入る前に、わたしたちは調停を申し立てましたが、その場で西宮市は、「家賃を支払う意志があるので一度は家賃を支払えという裁判にして猶予した」などと言っているということを聞き、なんて大ウソをつくのかと思いました。なぜ私とTさんは、他の多くの市民とは違って差別的に取り扱われ、いきなり「住宅を明け渡せ」と言われなければならないのでしょうか?
また、一昨年、姉のA子が若くして娘さんを亡くし、脳梗塞で半身不随になり、介護のために上ヶ原の市営住宅に通っていましたが、なにかと不便なので昨年、わたしたちが住む神明2号館に住み替えることができました。ようやく手厚い介護ができるようになった矢先に、わたしたちに住宅を明け渡せとの裁判です。こんなことは、本当に困るし、認められません。改良住宅からの明け渡しは認められないばかりでなく、現実的に姉とわたしたち一家は生きていくことができません。裁判所は、わたしたちを路頭に放り出すような判断を、絶対にしてはならない、ということが訴えたいことの第三です。
おわりに
今回の裁判は、わたしたちの命と暮らしに係る問題です。家賃の支払いの意志を示す者を、住宅から追い出し路頭に放り出すなどということは絶対に認められません。わたしたちは、この違法性をどんなに時間がかかっても、全面的にあきらかにしていきたいと思います。西宮市の訴えを棄却されることを強く訴えて、裁判冒頭の意見にかえます。
多くの皆さんが、この裁判に注目され、支援の傍聴に駆け付けてくださるよう訴えます。
次回公判は、住宅追い出し裁判第4回(その1) 9月17日(木)13:15~ 同(その2) 9月29日(火)13:15~ です。
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コメント
差別との闘いは大事です。是非、傍聴に伺いたいと思います。裁判は、大変でしょうが、頑張ってください。私達は、7月13日(月曜日)13時30分京都地裁で小林智子理事長を証人尋問、追及します。労基法、憲法違反、男女雇用機会均等法違反などで追及します。私達は、無手勝流の本人訴訟で頑張っています。良かったら、大傍聴をお願いします。
投稿: 京都生協の働く仲間の会 | 2009年7月 2日 (木) 22時23分